OpenID Foundation IPSIE WG 活動レポート (2026年4月)
執筆日: 2026-05-17(2026年4月の活動を遡及してまとめたレポートです)
1. 概要
IPSIE(Interoperability Profiling for Secure Identity in the Enterprise)Working Group は、エンタープライズにおける安全なアイデンティティ管理を実現するため、既存標準仕様(OpenID Connect, OAuth 2.0, SCIM, SAML, Shared Signals 等)の 相互運用性プロファイル を策定する OpenID Foundation の WG である。2024年10月に設立され、共同議長は Aaron Parecki(Okta)と Dick Hardt(Hellō)が務める。スコープは SSO・ユーザーライフサイクル管理・エンタイトルメント・リスクシグナル共有・ログアウト・トークン失効の 6 分野で、それぞれセキュリティレベル(SL1〜SL3、AL1〜AL3 等)と対応するプロファイル群として整理されている。
2026年4月時点で WG が抱えるアクティブな草案は次の 3 本である:
- IPSIE Common Requirements Profile(共通要件プロファイル)
- OpenID Connect SL1(シングルサインオン セッション管理プロファイル レベル 1)
- SCIM AL1(アカウントライフサイクルプロファイル レベル 1)
4月は、3月から続いてきた「IDP からの session 再確立 / 失効コマンド」の議論を 具体的な数値(取り消しデッドライン)に落とし込む ことが中心議題となった月である。4月14日・4月21日の 2 回の定例コールでデッドライン値が詰められ、その結果が Aaron Parecki により PR openid/ipsie#121 として 4月21日に起票された。月内ではマージに至らず、レビューは翌月に持ち越されている。
月次活動の要点:
- 4月7日・14日・21日に定例コールが開催された(議事録 wiki に 4月28日のエントリは確認できない)
- 4月14日のコールで、IDP の失効コマンドに対する application 側のアクション期限を「SL2 / SL3」「device-bound か否か」で区分する方針が議論された
- 4月21日のコールで、SL1(最小セッション長 5 分)・SL2(device-bound 1 時間 / 非 device-bound 15 分)・SL3(device-bound 15 分 / 非 device-bound 5 分)という具体値で合意し、用語を "token lifetime" ではなく "deadline" とすることが確認された
- Aaron Parecki が同日 PR openid/ipsie#121 を起票し、
ipsie-levels.mdに上記の数値と用語整理を取り込む変更を提案した(4月末時点では open のまま) - 4月27日には IIW Spring 2026 前日に OpenID Foundation Hybrid Workshop が Cisco San Jose で開催され、WG アップデート枠が設けられた
2. 公開された仕様・ドラフト改訂
2026年4月中に、IPSIE WG から Implementer's Draft / Final Specification として公式に公開された仕様改訂は確認できない。WG は引き続き以下のエディターズドラフトを GitHub 上で更新する段階にある:
ipsie-v1-draft.md(共通要件プロファイル本体)ipsie-levels.md(SL1〜SL3 / AL1〜AL3 等のセキュリティレベル定義)ipsie-terminology.md(用語定義)
GitHub openid/ipsie リポジトリの main ブランチに対して 4月中に取り込まれたコミットは確認できなかった(GitHub API での since=2026-04-01..2026-04-30 クエリ結果はゼロ件)。4月の議論成果である「取り消しデッドライン」の ipsie-levels.md への反映は、4月21日に Aaron Parecki が起票した PR #121 "update IPSIE level detail with session termination deadlines" として提案された段階であり、月内のマージには至っていない(同 PR は翌5月以降にレビューが進む)。
PR #121 の本文では起票理由が as discussed during the 4/14 and 4/21 calls(4月14日・21日のコールでの議論の通り)とのみ短く記されており、設計判断は本文ではなく当該コール議事録およびマージ前レビューを参照する形式となっている。
3. ミーティングと議論
IPSIE WG の定例コールは毎週火曜 9:00 PT に開催される。4月の開催状況は、GitHub Wiki の議事録ページおよび ML への議事録通知から以下の通り再構成できる:
| 開催日 | ML 議事録通知 | 主要テーマ |
|---|---|---|
| 2026-04-07 | Aaron Parecki(4月9日投稿、wiki リンクのみ) | 議事内容の wiki 反映、ML 通知ではトピック非開示 |
| 2026-04-14 | Aaron Parecki(4月14日投稿、概要付き) | 失効コマンドに対する取り消しデッドラインの枠組み(SL2 / SL3、device-bound 区別) |
| 2026-04-21 | Aaron Parecki(4月21日投稿、概要付き) | デッドラインの具体値合意、用語「deadline」採用、PR #121 起票 |
| 2026-04-28 | — | 議事録 wiki に該当ページなし |
議事録の本体は github.com/openid/ipsie/wiki 配下の各日付ページに置かれているが、本稿執筆で確認できた限り、ML への通知文には 4月7日コールのトピックが含まれず、4月14日・21日コールについては概要が付されていた。以下、ML 通知から再構成可能な範囲で各コールの論点を整理する。
2026-04-07 コール
ML 投稿では Meeting minutes from yesterday's call are posted here(昨日のコールの議事録を投稿した)として wiki ページ github.com/openid/ipsie/wiki/2026-04-07 のリンクが共有されたのみで、議題の概要は ML 本文には含まれていない。Aaron Parecki は同投稿で Edits are welcome, since some of the conversation flew by very quickly(会話の一部が速かったので編集歓迎)と付記しており、議論密度が高かった様子はうかがえる。具体トピックは ML 経由では公開記録から特定できなかった。
2026-04-14 コール: 取り消しデッドラインの枠組み
ML 投稿(Aaron Parecki, 2026-04-14 投稿)には、wiki リンクとともにコールでの合意事項の要旨が記載されている。トピックは、Identity Provider が application に対して送る失効コマンド(3月のコールで定義された "re-establish session" / "invalidate access")を受信した後、application 側が どれだけの時間内 に当該アクションを完了する必要があるか、という最大ライフタイムの枠組みである。
ML 通知から確認できる合意の骨子は以下の通り:
- SL2 が最も長い最大ライフタイムを持つ
- SL3 はそれより短い最大ライフタイムを持つ
- device-bound されたトークンは、非 device-bound のトークンより長い最大ライフタイムを持つ
- これらの値は トークンの literal な有効期限ではなく、worst-case シナリオ として位置付ける
- ステートフル実装を持つ RP は、これより早期にトークンを失効させることができる
具体的な分単位の数値はこの 4月14日コールでは確定せず、Please come ready next week with input on the specific lifetime values, or send your thoughts to the list(次週は具体的なライフタイム値に関する意見を持参するか、ML に投げてほしい)として 4月21日コールへの宿題が設定された。
2026-04-21 コール: デッドライン具体値の合意と用語整理
4月21日コールでは、前週の宿題であった具体値が詰められた。ML 投稿(Aaron Parecki, 2026-04-21 投稿)には、合意された値が以下のように記載されている:
- SL1: IdP が RP 側に強制可能な最小セッションライフタイムを 5 分 とする
- SL2: 失効デッドラインを、device-bound トークンは 1 時間 / 非 device-bound トークンは 15 分
- SL3: 失効デッドラインを、device-bound トークンは 15 分 / 非 device-bound トークンは 5 分
加えて、用語選定として "token lifetime"(トークン有効期限)ではなく "deadline"(期限) を採用することが合意された。これは、SL2/SL3 で定義する値が「トークン自体の literal な有効期限」ではなく「失効コマンド受信後に application が当該アクションを完了するまでの猶予」を意味するため、両者の混同を避けることを意図したものである。
この合意を受けて Aaron Parecki は同日(2026-04-21)に PR #121 を起票し、ipsie-levels.md への反映を提案した。具体的な変更内容は以下の通りである:
- SL1 セクション末尾に
When a session lifetime is requested by the Identity Service, the minimum value is 5 minutes.(IdP がセッションライフタイムを要求する場合、最小値は 5 分とする)を追記 - SL2 セクションに新規節
Revocation Deadlinesを設け、"re-establish session" or "terminate"コマンド受信後の application 側デッドラインを「device-bound 1 時間 / 非 device-bound 15 分」と規定 - SL3 セクションでは、SL2 と同形式で「device-bound 15 分 / 非 device-bound 5 分」のデッドラインを規定し、
shortens the deadlines for revocation(失効デッドラインを短縮する)旨を本文に追加 - 既存節の導入行を
**FAL2 Compliance**:**Session Lifetime**:**Authentication Method**:の太字ラベル付き節構造に整理
4月末時点では本 PR はマージされておらず、レビューは月をまたいで継続することとなった(PR comments を見る限り、最初のレビュー反応は 2026年5月に入ってからである)。
2026-04-28 コール: 開催記録なし
github.com/openid/ipsie/wiki の議事録一覧に 2026-04-28 のエントリは存在せず、openid-specs-ipsie ML の Week-of-Mon-20260427 週次インデックスも公開アーカイブには現れていない。これは 4月28日が IIW(4月28日〜30日、マウンテンビュー)の初日にあたるため、当該週のコールがスキップされた可能性が高い(4月27日には OIDF Hybrid Workshop も開催されているため、メンバーの大半が現地集中していたことが推測される。ただし WG として公式にスキップを告知した記録は確認できなかった)。
4. メーリングリストの主要スレッド
2026年4月の openid-specs-ipsie メーリングリスト(pipermail アーカイブ、週次インデックス)への投稿は、3月と同様に Aaron Parecki による定例コール議事録通知 3 件のみ であった。返信スレッドの形成はなく、技術的な独立スレッドは確認できない。これは IPSIE WG が「議論は同期コールおよび GitHub PR レビューに寄せ、ML は議事録の公示用途として運用する」体制を引き続き維持していることを示している(3月レポートで指摘した運用の継続である)。
4月中の投稿 3 件は次の通り:
- [Openid-specs-ipsie] 2026-04-07 meeting minutes — Aaron Parecki, 2026-04-09 投稿。wiki リンクのみ。「会話の一部が速かったので編集歓迎」との付記
- [Openid-specs-ipsie] 2026-04-14 meeting minutes — Aaron Parecki, 2026-04-14 投稿。§3 で再構成した「取り消しデッドラインの枠組み」の合意要旨と、翌週への宿題(具体値の検討)
- [Openid-specs-ipsie] 2026-04-21 meeting minutes — Aaron Parecki, 2026-04-21 投稿。§3 で再構成した SL1〜SL3 のデッドライン具体値合意と「deadline」用語採用
いずれも単独投稿で、ML 上で派生する技術討議は発生していない。4月14日コール後に Aaron が or send your thoughts to the list(ML に意見を送ってもよい)と呼びかけたにもかかわらず、4月20日週・21日週ともに ML への独立した意見投稿は確認できず、議論は実際には 21日のコール上で完結したかたちである。
5. GitHub 上の議論
openid/ipsie リポジトリ上で、2026年4月の期間に以下の確認を行った:
is:issue created:2026-04-01..2026-04-30→ 該当なし(new issue ゼロ件)is:pr created:2026-04-01..2026-04-30→ 1 件(PR #121, aaronpk, 2026-04-21 起票)repos/openid/ipsie/commits?since=2026-04-01..until=2026-04-30→ 該当コミットなし
唯一の活動である PR #121 を以下に詳述する。
openid/ipsie#121 — update IPSIE level detail with session termination deadlines
- 起票: 2026-04-21(aaronpk)
- 対象ファイル:
ipsie-levels.md(+18 / -4) - 状態: 4月末時点で open(月内マージなし)
- 本文:
as discussed during the 4/14 and 4/21 calls
§3 で詳述した 4月14日・21日コールの合意(SL1 最小セッション 5 分、SL2 デッドライン 1h/15m、SL3 デッドライン 15m/5m、用語「deadline」採用、節構造の太字ラベル化)を ipsie-levels.md に取り込む変更である。差分の中心は SL2 セクションへの新節 Revocation Deadlines の追加と、SL3 セクションへの同種デッドライン規定の追加である。
4月末時点では新規コメント・レビューは付いておらず、起票だけが完了した状態であった(最初のレビュー反応 ttripp による 5月5日コメント、Aaron による 5月6日応答は本月外)。本 PR を除き、4月中に他の issue / PR でコメント活動も発生していない(GitHub Search API updated:2026-04-01..2026-04-30 の結果も総数 0 件として返された)。
これらの事実は、3月レポートで観察された傾向「IPSIE WG では議論は定例コール上で進み、GitHub 上の文書反映は後追いとなる」がそのまま継続していることを示している。3月の議論(Karl McGuinness のセッション仕様、Danny Zollner の SCIM プロファイル二文書化)の openid/ipsie リポジトリへの反映は、本月の PR #121 を含めても部分的にとどまっており、4月もなお「議論先行・文書後追い」の段階が続いていると言える。
6. 関連イベント
2026年4月には、IPSIE WG メンバーの関与が見込まれる以下の対面・ハイブリッドイベントが開催された:
- OpenID Foundation Hybrid Workshop(pre-IIW): 2026-04-27 12:30〜16:30 PDT、Cisco Santana Row, San Jose, CA(およびオンライン)。Spring 2026 IIW の前日開催。アジェンダの公表項目には
What's New at OIDF & What's Happening for the rest of 2026、Working Group Updates、Discussion on Emerging Digital ID trends、Deep dive into our latest white papersが含まれ、WG アップデート枠の中で IPSIE の状況も共有された見込み。なお同 Workshop の OpenID Connect WG アップデート枠は Mike Jones が登壇している(スライド)。IPSIE 固有スライドの公開は本稿執筆時点では確認できなかった - IIW Spring 2026(Internet Identity Workshop): 2026-04-28〜04-30、Computer History Museum, Mountain View, CA。アンカンファレンス形式のため事前アジェンダは設定されないが、IPSIE WG メンバーの大半(議長含む)がベイエリアに集中していたと推測される
なお、3月17日コールで参加候補として挙げられていた IETF 125(深圳、3月14〜20日) は 4月以前に終了しているため本月の対象外であり、EIC(5月19〜22日)、OAuth Security Workshop(5月27〜29日)、Identiverse(6月15〜18日) は本月時点では未開催である。
7. 今後の予定
2026年4月末時点で、IPSIE WG が 5月以降に向けて予定している主要作業は以下の通り:
- PR #121 のレビュー完了とマージ:
ipsie-levels.mdへのデッドライン値・用語整理の取り込みは、レビューを経て 5月初旬以降にマージされる見込み - デッドライン値の周辺仕様への波及: SL1〜SL3 で定義されたデッドラインを、OpenID Connect SL1 ドラフトおよび SCIM AL1 ドラフトのうち、セッション再確立 / 失効コマンドに関連する箇所へ反映する作業が想定される
- 3月の議論成果の文書反映継続: Karl McGuinness のセッションライフサイクル仕様、Danny Zollner の SCIM プロファイル二文書化方針("SCIM Protocol Interoperability Profile" + IPSY AL1/AL2/AL3)はいずれも 4月中に
openid/ipsieへの PR としては起票されていないため、5月以降の進捗が注視される - EIC(5月19〜22日, ベルリン)への参加: 3月17日コールで参加候補として挙げられたカンファレンス。ヨーロッパ圏のメンバーによる IPSIE 紹介セッションの可能性
- 次回定例: 4月28日が事実上スキップされたとすれば、5月5日(火)が次回コール候補となる
8. 参考情報源
OpenID Foundation 公式
- IPSIE Working Group — WG 概要・議長・スコープ
- IPSIE Charter — 目的・スコープ・対象仕様
- Registration Open for OpenID Foundation Hybrid Workshop on Mon 27th April 2026 — pre-IIW Workshop の登録案内
- ipsie タグページ — IPSIE 関連の公式ブログ一覧
メーリングリスト(Pipermail アーカイブ)
- openid-specs-ipsie 週次アーカイブインデックス — 全期間の週次アーカイブ
- Week-of-Mon-20260406/thread.html — 4月第1週(4月7日議事録通知のみ)
- Week-of-Mon-20260413/thread.html — 4月第2週(4月14日議事録通知のみ)
- Week-of-Mon-20260420/thread.html — 4月第3週(4月21日議事録通知のみ)
- 2026-04-07 meeting minutes(本文) — Aaron Parecki 投稿
- 2026-04-14 meeting minutes(本文) — Aaron Parecki 投稿。取り消しデッドライン枠組みの合意要旨
- 2026-04-21 meeting minutes(本文) — Aaron Parecki 投稿。SL1〜SL3 のデッドライン具体値合意
GitHub
- openid/ipsie リポジトリ — IPSIE WG の公開リポジトリ
- openid/ipsie Wiki - 会議記録 — 定例コール議事録インデックス(4月7日・14日・21日の各ページを含む)
- openid/ipsie#121 —
ipsie-levels.mdへの取り消しデッドライン取り込み PR
議事録補助リソース
- IPSIE WG HackMD トップ — 定例コールのライブノート置き場
関連イベント
- OIDF Workshop pre-IIW(Eventbrite) — 4月27日 Workshop の参加登録ページ
- OpenID Presentations at April 2026 OpenID Workshop and IIW(Mike Jones: self-issued) — 4月27日 OIDF Workshop と 4月28日 IIW の登壇まとめ